耐熱クラスの選び方

耐熱クラスと温度上昇限度

モータを運転すると、内部損失による発熱のために温度が上昇し、数時間経過すると一定の温度に落ち着きます。モータの温度と周囲の温度との差を温度上昇といい、この値が高くなりすぎると絶縁物の劣化をはやめたり、焼損したりします。空気を一次冷媒 とし、冷媒温度の限度が40℃の場合について、JEC-2137「誘導機」で表5-1のように決められています。

冷媒温度が40℃以上の場合、標高が 1000mを超える場合については温度上昇限度の修正が必要となります。 東芝モータの耐熱クラスをつぎの表5-2に示します。また東芝製の低圧乱巻コイ ルの標準絶縁構成の仕様例は表5-3のようになっています。

表5-1 空冷形誘導機の温度上昇限度(JEC-2137) (単位 K)

項目

誘導機の部分

耐熱クラス

温度計法

抵抗法

埋込温度計法

温度計法

抵抗法

埋込温度計法

温度計法

抵抗法

埋込温度計法

1

(a)

出力5000kW(またはkVA)以上の誘導機の固定子巻線

60

65
(1)

75

80

80

85
(1)

(b)

出力200kW(またはkVA)超過、5000kW(またはkVA)未満の誘導機の固定子巻線

60

65
(1)

75

80

80

90
(1)

(c)

出力200kW(またはkVA)以下で、項目1(d)または1(e)以外の誘導機の固定子巻線(3)

(2)

60

(2)

75

(2)

80

(d)

出力600W(またはVA)未満の誘導機の固定子巻線(3)

(2)

65

(2)

75

(2)

85

(e)

冷却扇なしの自冷形(IC40)・モールド形誘導機の固定子巻線(3)

65

75

85

2

絶縁を施した回転子巻線

60

75

80

3

かご形巻線

この部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

4

整流子・スリップリング・ブラシおよびブラシ調整装備

これらの部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

5

絶縁物との接触に関係なく鉄心とすべての構造構成物(軸受けを除く)

この部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

項目

誘導機の部分

耐熱クラス

温度計法

抵抗法

埋込温度計法

温度計法

抵抗法

埋込温度計法

1

(a)

出力5000kW(またはkVA)以上の誘導機の固定子巻線

100

105(1)

125

130(1)

(b)

出力200kW(またはkVA)超過、5000kW(またはkVA)未満の誘導機の固定子巻線

105

110(1)

125

130(1)

(c)

出力200kW(またはkVA)以下で、項目1(d)または1(e)以外の誘導機の固定子巻線(3)

(2)

105

(2)

125

(d)

出力600W(またはVA)未満の誘導機の固定子巻線(3)

(2)

110

(2)

130

(e)

冷却扇なしの自冷形(IC40)・モールド形誘導機の固定子巻線(3)

110

130

2

絶縁を施した回転子巻線

105

125

3

かご形巻線

この部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

4

整流子・スリップリング・ブラシおよびブラシ調整装備

これらの部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

5

絶縁物との接触に関係なく鉄心とすべての構造構成物(軸受けを除く)

この部分の温度上昇は、いかなる場合もその部分の絶縁物や近傍の材料に有害な影響を与えないこと。

注 (1) 高圧交流巻線の場合に補正が適用される項目。
(2) 製造者と購入者間で合意のある場合、温度計法によって決定してもよい。
(3) 耐熱クラスA、E、B、F、であり、定格が200kW(またはkVA)以下である誘電機の巻線に重ね合わせ等価負荷法を適用する場合は、抵抗法の温度上昇限度を5Kだけ超えてもよい。

表5-2

表5-3 主要絶縁物の適用例

絶縁

E種

B種

F種

構成

巻線

ポリエステル・アミドイミド銅線

ポリエステル・アミドイミド銅線

ポリエステル・アミドイミド銅線

絶縁紙

ポリエステルフィルム

耐熱フィルム

耐熱シート複合剤

ワニス

アルキッド系ワニス

アルキッド系アニス

アルキッド系アニス

耐熱クラスの決め方

一般に耐熱クラスは各国規格や、メーカの設計内容で決まってきますが、周囲状況や、信頼性上の観点から次のように検討する場合があります。

(1) 温度上昇を高くとりたい場合
始動・停止・逆相制動などを頻繁に行うと、モータの発熱が多くなり、 温度上昇が規格値をこえてしまうことがあります。このような場合、出力の大きなモータを使用するか、枠番号を大きくしてDutyに適合させることもできますが、モータ寸法が大きくなっては困る場合には、耐熱クラスを上げる必要があります。

(2) 冷媒温度が高い場合
モータの温度上昇を定めるときの基準冷媒温度は空気冷却の場合は 40℃となっていますから、冷媒(空気)温度が40℃をこえる時には、その超えた分だけ温度上昇限度を低くとらなければ、絶縁の許容温度をこえてしまい、 寿命を短くしたり、焼損事故の原因となります。耐熱クラスは冷媒温度の値によって定めますが、その他に軸受の温度について考慮が必要です。すなわち、軸受 についても温度上昇があり、周囲温度が高くなれば軸受温度が高くなりますから、耐熱グリースを使用したりスキマの大きい(たとえばC3スキマ)ものを使用 することもあります。また、H種絶縁ではモータの表面処理(塗装方法)が変わることもあります。

(3) 寿命あるいは信頼性を高めたい場合
周囲温度は40℃以下でも、耐熱クラスを上級のものに変更すれば、その絶縁に対する温度上昇限度より低い温度上昇とすることができ、寿命を長くし、信頼性を高めることができます。

(4) 小形にしたい場合
モータを小形にしたい場合は、(1)と同様に温度上昇が高くなりますから、耐熱クラスを上げる必要があります。

【付録】 設置場所の条件を考慮した温度上昇限度の補正

設置場所運転条件が異なる場合、設置場所の最高冷媒温度、標高を考慮して、表5-1の温度上昇限度に対して次の補正を行う。

(1) 最高冷媒温度に対する補正
(a) 最高冷媒温度が0℃以上40℃未満の場合は、通常、補正は行わない。ただし、製造者と購入者との合意によって、最高30Kとして、最高冷媒温度と40℃の差の分を表5-1の値に加えることができる。
(b) 最高冷媒温度が40℃を超え60℃以下の場合は、40℃を超えた分だけ表5-1の値から差し引く。
(c) 最高冷媒温度が0℃未満、または60℃を超える場合、製造者と購入者との協議による。

(2) 標高が1000mを超え4000m以下の場合
(a) 最高冷媒温度の指定がある場合は、(1)により最高冷媒温度に対する温度上昇限度の補正を行う。ただし、標高に対する温度上昇限度の補正は行わない。
(b) 最高冷媒温度の指定がない場合は、温度上昇限度の補正は行わない。

備考

標高による冷却効果の減少は、最高周囲温度が40℃より低くなることによって補償されると考え られる。したがって、その温度限度は40℃に表5-1の温度上昇を加えた値を超えないと考えられる。必要な周囲温度の減少を、1000mを超える100m ごとに表5-1の温度上昇限度の1%とすると、1000m以下の最高周囲温度を40℃として標高4000mまでの最高周囲温度を求めると、表5-4のよう になる。

表5-4  想定最高周囲温度

             

標高(m)

温度(℃)

耐熱クラス

1000

40

40

40

40

40

2000

34

33

32

30

28

3000

28

26

24

19

15

4000

22

19

16

9

3